$p$ 進Hodge理論2.3

https://math.stanford.edu/~conrad/papers/notes.pdf

2.3 Hodge-Tate分解

 以下に述べるSerreとTateの補題は、Tate-Senの定理とともに非常に重要なものです。

 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ と $q\in \mathbb{Z}$ に対し、$K$ ベクトル空間

\[W\{q\}:=W(q)^{G_K}\cong \{w\in W\mid g(w)=\chi(g)^{-q}w\quad (\forall g\in G_K)\}\]

を考えます*1。これは $q\ne 0$ のとき $\mathbb{C}_K$ ベクトル空間ではないことに注意します*2

 

 掛け算によって $G_K$ 同変な写像 $K$ 線形写像

\[K(-q)\otimes_K W\{q\}\hookrightarrow K(-q)\otimes_K W(q)\cong W\]

が得られます。さらに $\mathbb{C}_K$ をテンソルすることで

\[\mathbb{C}_K(-q)\otimes_K W\{q\}\to W\]

が得られます。

 

補題(Serre-Tate)
 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ の $\mathbb{C}_K$ 線形 $G_K$ 同変写像
\[\xi_W:\bigoplus_q(\mathbb{C}_K(-q)\otimes_K W\{q\})\to W\]
単射である。特に、有限個を除くすべての $q$ に対し $W\{q\}=0$ であり、 $\dim _KW\{q\}<\infty\quad (\forall q),\quad \sum_q\dim_KW\{q\}\leq \dim_{\mathbb{C}_K}W$ となる。等号が成立するのは $\xi_W$ が同型であることと同値である。
証明 
 $x=(x_q)\in\bigoplus_q(\mathbb{C}_K\otimes_K W\{q\})$ に対し、$x_q$ をelementary tensorの和 $\sum_{j=1}^{n_q}c_j\otimes w_j\quad (c_j\in\mathbb{C}_K,w_j\in W\{q\})$ で表したときの長さ $n_q$ のうち最小のものを $l(x_q)$ とし、$x$ の長さを $l(x)=\sum_ql(x_q)$ で定める。
 $0\ne v=(v_q)_q\in\ker \xi_W$ が存在すると仮定する。そのようなもののうち長さが最小な $v$ をとる。$v_{q_0}\ne0$ なる $q_0$ をとり、\[v_{q_0}=\sum_j c_j\otimes y_j\qquad (c_j\in \mathbb{C}_K^\times,y_j\in W\{q_0\},c_1=1)\]
とする*3。$\xi_W$ は $G_K$ 同変だから $g\in G_K$ に対して $g(v)\in \ker \xi_W$ であり、したがって $g(v)-\chi(g)^{-q_0}v\in\ker \xi_W$ となる。
 $\sum c_{j,q}\otimes y_{j,q}\quad (c_{j,q}\in \mathbb{C}_K(-q),y_{j,q}\in W\{q\})$ を $v_q$ の長さ最小の表し方とすると、$g(v)-\chi(g)^{-q_0}v$ の第 $q$ 成分は
\[g(v_q)-\chi(g)^{-q_0}v_q=\sum (\chi(g)^{-q}g(c_{j,q})-\chi(g)^{-q_0}c_{j,q})\otimes y_{j,q}\]
となる。これは $q=q_0,j=1$ の項が0になるため、$l(v)$ の最小性から $g(v)-\chi(g)^{-q_0}v=0$ でなくてはならない。
 すなわち、$\chi(g)^{q_0}g(v)=v\quad (\forall g\in G_K)$ であり、$v\in K(-q_0)\otimes_K W\{q_0\}$ となる。ここで $K\cong K(-q_0)$ だから $K(-q_0)\otimes_K W\{q_0\}$ の元はすべてelementary tensorである。よって $l(v)=1$。$v=c\otimes w$ とかくと $\xi_W(v)=cw\ne 0$ となり矛盾。
(証明終わり)
 
 
$W[q]$ を $W$ の $K$ 部分空間
\[\{w\in W\mid g(w)=\chi(g)^{-q}w\quad (\forall g\in G_K)\}(=W\{q\}\otimes_{\mathbb{Q}_p}\mathbb{Q}_p(-q))\]
とすると、この補題は $\bigoplus (\mathbb{C}_K\otimes_K W[q])\hookrightarrow W$ とも言い換えられます。
 
 
定義
 表現 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ が Hodge-Tate であるとは、$\xi_W$ が同型であることを言う。$V\in {\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(G_K)$ が Hodge-Tate であるとは、$\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}V\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ が Hodge-Tate であることを言う。

 

 $W$ が Hodge-Tate のとき、$h_q=\dim_K W\{q\}$ とおくと $W$ はnon-canonical に$\bigoplus \mathbb{C}_K(-q)^{h_q}$ と同型になります。逆に、$W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し分解 $W\cong \bigoplus \mathbb{C}_K(-q)^{h_q}$ があるとき($h_q\geq 0$ かつほとんどすべての $q$ は $0$)、Tate-Sen の定理から $\dim_K W\{q\}=h_q$ であって、$\sum_q\dim_K W\{q\}=\sum_qh_q=\dim_{\mathbb{C}_K}W$ となるため $W$ は Hodge-Tate です。つまり、Hodge-Tate という性質は $\mathbb{C}_K(r_i)$ の有限個の直和に同型という性質に言い換えることもできます。特に、$W$ がHodge-Tate なら $W^\vee$ も Hodge-Tate です。

 

 特にスムースで固有な $K$ 上のスキーム $X$ に対して $W=\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n(X_{\overline{K}},\mathbb{Q}_p)$ とおくと、Faltingsの定理より $W\{q\}$ は $H^{n-q}(X,\Omega^q_{X/K})$ とcanonicalに $K$ 同型になります。

 

 $W$ がHodge-Tateのとき、$h_q>0$ なる $h_q$ を $W$ のHodge-Tate weightと言います。$q\in\mathbb{Z}$ が $W$ のHodge-Tate wightであるのはちょうど単射 $\mathbb{C}_K(-q)\hookrightarrow W$ があるときになります。

 

 

次回に続く

*1:同型の左辺は $W(q)$ の部分空間、右辺は $W$ の部分空間であり、同型は $\mathbb{Z}_p(1)$ 基底の取り方によることに注意。したがって $W\{q\}$ はnon-canonicalに $W$ の $K$ 部分空間となる。

*2:$0\ne cx\in W\{q\}\quad (\forall c\in\mathbb{C}_K)$ とすると任意の $g\in G_K$ に対し $g(c)x=cx$ より $g(c)=c$ となり、$c\in \overline{K}^{G_K}=K$ となるが $K\subsetneq \mathbb{C}_K$ であるため矛盾。

*3:$\xi_W$ は $\mathbb{C}_K$ 線形であり、また $\mathbb{C}_K^\times$ 倍しても長さは変わらないので $c_1=1$ としてよい。