$p$ 進Hodge理論2.4(2)

https://math.stanford.edu/~conrad/papers/notes.pdf

 

前回定義した $\underline{D}$ を調べる上で、次の「周期環」が重要になります。

 

定義
 $\mathbb{C}_K$ 代数
\[B_{\rm HT}=\bigoplus_q\mathbb{C}_K(q)\]
を $K$ の Hodge-Tate 環という*1。積構造は同型 $\mathbb{C}_K(q)\otimes_{\mathbb{C}_K}\mathbb{C}_K(q')\cong\mathbb{C}_K(q+q')$ によって入れる。
 
 $B_{\rm HT}$ は次数付き $\mathbb{C}_K$ 代数となります*2。$\mathbb{Z}_p(1)$ の基底 $t$ をとると、$B_{\rm HT}$ はLaurent多項式環 $\mathbb{C}_K[t,t^{-1}]$ に自明な次数付けと $g(t^i)=\chi(g)^it^i$ で定まる $G_K$ 作用を入れたものと同一視されます。
 
 Tate-Senの定理によって $B_{\rm HT}^{G_K}=K$ が成り立ちます。また、$W\in{\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、${\rm Gr}_K$ で
\[\underline{D}(W)=\bigoplus_q(\mathbb{C}_K(q)\otimes_{\mathbb{C}_K} W)^{G_K}=(B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K}W)^{G_K}\]
が成り立ちます*3
 
 逆に $D\in {\rm Gr}_{K,f}$ から $\mathbb{C}_K$ 表現をつくることもできます:
$B_{\rm HT}\otimes_K D$ には次数付き $\mathbb{C}_K$ ベクトル空間の構造が
\[{\rm gr}^n(B_{\rm HT}\otimes_K D)=\bigoplus_q{\rm gr}^q(B_{\rm HT})\otimes_K D_{n-q}=\bigoplus_q\mathbb{C}_K(q)\otimes_KD_{n-q}\]
によって入ります。さらに、$B_{\rm HT}\otimes_K D$ には $B_{\rm HT}$ から誘導された $G_K$ 作用が入り、その作用は次数付けとcompatibleになっています。したがって、
\[\underline{V}(D):={\rm gr}^0(B_{\rm HT}\otimes_K D)=\bigoplus_q \mathbb{C}_K(-q)\otimes_K D_q\]
は $\mathbb{C}_K$ 表現になります*4。$\underline{V}(D)$ は $\mathbb{C}_K(-q)$ の形の表現の直和なので Hodge-Tate です。また、$\underline{V}:{\rm Gr}_{K,f}\to {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ は共変完全関手となります。
 
 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、$B_{\rm HT}$ の積構造から「比較写像
\[\gamma_W:B_{\rm HT}\otimes_K\underline{D}(W)\hookrightarrow B_{\rm HT}\otimes_K (B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K}W)\to B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K} W\]
が得られます。これは $B_{\rm HT}$ 線形で $G_K$ 作用*5および次数付け*6とcompatibleになっています。これを使うとSerre-Tateの補題*7が次のように言い換えられます。
 
 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、$\gamma_W$ は単射である。$\gamma_W$ が同型であることと $W$ が Hodge-Tate であることは同値であり、そのとき ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ において
\[\underline{V}(\underline{D}(W) )={\rm gr}^0(B_{\rm HT}\otimes_K \underline{D}(W))\overset{\gamma_W}{\cong}{\rm gr}^0(B_{\rm HT})\otimes_{\mathbb{C}_K} W=W\]
が成り立つ。
証明 $\gamma_W$ を ${\rm gr}^n$ に制限したものは $\xi_W$ を $\mathbb{Q}_p(n)$ だけひねったものだから、Serre-Tate の補題に帰着される。 (証明終わり)
 
 この補題より、比較同型
\[\gamma_{\underline{V}(D)}:B_{\rm HT}\otimes_K \underline{D}(\underline{V}(D))\cong B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K}\underline{V}(D)\]
が得られます。両辺の $G_K$ 不変部分をとると ${\rm Gr}_K$ での同型
\[\underline{D}(\underline{V}(D))\cong\bigoplus_r (\underline{V}(D)(r))^{G_K}\]
が得られます。ここで、$\underline{V}(D)(r)\cong \bigoplus_q \mathbb{C}_K(r-q)\otimes_K D_q$ であるため、Tate-Sen の定理から $(\underline{V}(D)(r))^{G_K}=D_r$  となります。したがって、
\[\underline{D}(\underline{V}(D))\cong\bigoplus_r D_r=D\]
となります。
 以上により次の定理の前半が示せました。
 
定理
 ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}$ の Hodge-Tate 表現のなす圏と、${\rm Gr}_{K,f}$ の間の関手 $\underline{D},\underline{V}$ は互いに quasi-inverse である。
 $W,W'\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、 $B_{\rm HT}$ の積で定まる $G_K$ 同変写像
\[(B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K} W)\otimes_{\mathbb{C}_K}(B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K} W')\to B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{C}_K}(W\otimes_{\mathbb{C}_K} W')\]
から誘導された ${\rm Gr}_K$ の写像
\[\underline{D}(W)\otimes\underline{D}(W')\to \underline{D}(W\otimes W')\]
は、$W$ と $W'$ が Hodge-Tate なら同型である。同様に、 $W$ が Hodge-Tate なら ${\rm Gr}_K$ の写像
\[\underline{D}(W)\otimes_K\underline{D}(W^\vee)\to \underline{D}(W\otimes W^\vee)\to \underline{D}(\mathbb{C}_K)=K\langle 0\rangle\]
は(各 $q$ に対する $W\{q\}$ と $W^\vee\{-q\}$ の間の)perfect pairing である。したがって、誘導される ${\rm Gr}_{K,f}$ の写像 $\underline{D}(W^\vee)\to \underline{D}(W)^\vee$ は同型である。
 つまり、$\underline{D}$ は Hodge-Tate 表現上のテンソル積および双対とcompatibleである。同様のcompatibilityは $\underline{V}$ に対しても成り立つ。
証明 $\underline{D}$ のテンソル積や双対に対する主張は直和とcompatibleであり、$W,W'$ は Hodge-Tate だから $W=\mathbb{C}_K(q),W'=\mathbb{C}_K(q')$ として良い。あとは実際に計算すれば示せる。同様に $\underline{V}$ に対しても $D=K\langle r\rangle,D'=K\langle r'\rangle$ として示せば良い。  (証明終わり)
 
定義
 ${\rm Rep}_{\rm HT}(G_K)$ を ${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(G_K)$ のHodge-Tate表現*8がなす充満部分圏とし、関手 $D_{\rm HT}:{\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}\to {\rm Gr}_{K,f}$ を
\[D_{\rm HT}(V)=\underline{D}_K(\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p} V)=(B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{Q}_p} V)^{G_K}\]
で定める。
 
これまでの結果より、${\rm Rep}_{\rm HT}(G_K)$ はテンソル積、双対、部分表現、商に関して閉じていること*9、また $D_{\rm HT}$ の構成と $K$ の有限次拡大および $\widehat{K^{\rm un}}$ への係数拡大は compatible であることが分かります。また、比較写像
\[\gamma_V:B_{\rm HT}\otimes_K D_{\rm HT}(V)\to B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{Q}_p} V\]
は $V$ がHodge-Tate のとき、またその時に限り同型になります。したがって $D_{\rm HT}:{\rm Rep}_{\rm HT}(G_K)\to {\rm Gr}_{K,f}$ は忠実関手です。
 
以上を用いると、Faltings の定理は以下のように言い換えられます。
 
 $X$ をスムースで固有な $K$ スキームとすると、$n\geq 0$ に対して $V:=H^n_{\rm et}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)$ は Hodge-Tate で、
\[D_{\rm HT}(V)\cong H^n_{\rm Hodge}(X/K):=\bigoplus_q H^{n-q}(X,\Omega_{X/K}^q)\]
が成り立ちます。したがって、比較写像 $\gamma_V$ は ${\rm Gr}_K$ での $B_{\rm HT}$ 線形 $G_K$ 同変な同型
\[B_{\rm HT}\otimes_K H^n_{\rm Hodge}(X/K)\cong B_{\rm HT}\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n_{\rm et}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)\]
になります。
 
 この同型はスムースな多様体 $M$ に対する同型
\[H^n_{\rm dR}(M)\cong \mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}H_n(M,\mathbb{Q})^\vee\]
に似ています。コホモロジーが有限次元の時、これは $H^n_{\rm dR}(M)$ の $\mathbb{R}$ 基底 $\{\omega_i\}$ および $H_n(M,\mathbb{Q})$ の $\mathbb{Q}$ 基底 $\{ \sigma _j\}$ に対する行列 $(\int_{\sigma_j}\omega_i)$ で表されます。$\int_\sigma \omega$ は周期とよばれており、また2つのコホモロジーの間の上の同型を得るためには $\mathbb{R}$ をテンソルする必要があります。これらの理由から、Faltingsの比較同型における係数環 $B_{\rm HT}$ は周期環と呼ばれます。
 
 ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ の Hodge-Tate 表現上の関手 $\underline{D}$ は忠実充満関手ですが、${\rm Rep}_{\rm HT}(G_K)$ の Hodge-Tate 表現上の関手 $D_{\rm HT}$ は忠実充満ではありません。例えば、有限位数の指標 $(1\ne )\eta:G_K\to \mathbb{Z}_p$ に対し、Tate-Sen の定理から $D_{\rm HT}(\mathbb{Q}_p(\eta))\cong K\langle 0\rangle =D_{\rm HT}(\mathbb{Q}_p)$ となりますが、$\mathbb{Q}_p(\eta)$ と $\mathbb{Q}_p$ の間に $0$ 以外の写像はありません。このように、${\rm Rep}_{\rm HT}(G_K)\to {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}; V\mapsto \mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}V$ という操作はかなり情報を失ってしまいます。そこで、$D_{\rm HT}$ を改良して良い $p$ 進表現の圏から半線形な代数の圏への忠実充満関手を作りたい、ということになります。
 
 

次回に続く

*1:$B$ はBarsottiの頭文字。

*2:積は次数に関して加法的で、$G_K$ 作用は次数および環構造を保つ。また、$G_K$ 作用は $\mathbb{C}_K$ 上半線形。

*3:次数付けは $B_{\rm HT}$ から誘導される。

*4:$D\in {\rm Gr}_{K,f}$ より、ほとんどすべての $q$ に対して $D_q=0$ であり $D_q$ はすべて $K$ 上有限次元であることに注意。

*5:$B_{\rm HT}$ と $W$ から誘導される。

*6:$B_{\rm HT}$ と $\underline{D}(W)$ から誘導される。

*7:https://cat76599648.hatenablog.com/entry/2024/03/19/042633

*8:$\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p} V$ が ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ の Hodge-Tate 表現

*9:拡大に関しては閉じていない。

$p$ 進Hodge理論2.4(1)

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2.4 Hodge-Tate表現のフォーマリズム

 ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ において

 \[\left(\bigoplus_q\mathbb{C}_K(-q)^{h_q}\right)\otimes_{\mathbb{C}_K} \left(\bigoplus_{q'}\mathbb{C}_K(-q')^{h'_{q'}}\right)\cong \bigoplus_r\mathbb{C}_K(-r)^{\sum_ih_ih'_{r-i}}\]

なので、$W,W'$ が Hodge-Tate なら $W\otimes W'$ も Hodge-Tate になります。同様に、$W\oplus W'$ も Hodge-Tate になります。

 

 Hodge-Tate 表現とテンソル積などの演算がどのように関係しているかを表すために、まず次の定義をします。

 

定義
 体 $F$ 上の($\mathbb{Z}-$)次数付きベクトル空間とは、部分ベクトル空間への分解 $D=\bigoplus_{q\in\mathbb{Z}}D_q$ をもつ $F$ ベクトル空間 $D$ のことをいい、$D_q$ を $D$ の次数 $q$ 部分という。次数付き $F$ ベクトル空間の間の射とは、$F$ 線形写像 $T:D'\to D$ で任意の $q$ に対し $T(D_q')\subset D_q$ なるもののことをいう。これらがなす圏を ${\rm Gr}_F$ と書き、そのうち有限次元のものがなす充満部分圏を ${\rm Gr}_{F,f}$ と書く。
 
 ${\rm Gr}_F$ はAbel圏になります。
 $r\in\mathbb{Z}$ に対して $F\langle r\rangle$ で次数 $r$ 部分が $F$ で他は$0$である次数付き $F$ ベクトル空間を表します。
 また、$D,D'\in{\rm Gr}_F$ に対して、$D\otimes D'$ を $q$ 次部分が $\oplus_{i+j=q}(D_i\otimes_F D_j')$ である $F$ ベクトル空間 $D\otimes_F D'$ とし、$D\in {\rm Gr}_{F,f}$ に対して $D^\vee$ を$q$ 次部分が $D_{-q}^\vee$ である $F$ ベクトル空間 $D^\vee$ とします。
 このとき、$F\langle r\rangle\otimes F\langle r'\rangle =F\langle r+r'\rangle,F\langle r\rangle ^\vee=F\langle -r\rangle$ が成り立ち、またevaluation map $D\otimes D^\vee\to F\langle 0\rangle$ や同型 $D\cong (D^\vee)^\vee$ は ${\rm Gr}_{F,f}$ の射になります。
 
次に、重要な関手 $\underline{D}$ を定義します。
 
定義
 共変関手 $\underline{D}=\underline{D}_K:{\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)\to {\rm Gr}_K$ を
\[\underline{D}(W)=\bigoplus_q W\{q\}=\bigoplus_q (\mathbb{C}_K(q)\otimes_{\mathbb{C}_K} W)^{G_K}\] 
で定める。
 
 この関手は明らかに左完全です。
 Serre-Tate の補題により $\dim_K\underline{D}(W)\leq \dim_{\mathbb{C}_K} W$ であり、特に $\underline{D}$ は ${\rm Gr}_{K,f}$ に値をとることが分かります。例えば、Tate-Sen の定理により $\underline{D}(\mathbb{C}_K(r))=K\langle -r\rangle$ となります。
$\underline{D}$ は完全列に対して次のように振舞います。
 
命題
 $0\to W'\to W\to W''\to 0$ が ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ での完全列で $W$ が Hodge-Tate のとき、$W',W''$ も Hodge-Tate で
\[0\to \underline{D}(W')\to\underline{D}(W)\to \underline{D}(W'')\to 0\]
は ${\rm Gr}_{K,f}$ での完全列である(したがって Hodge-Tate weight は Hodge-Tate 表現の完全列に関して加法的になる)。
 
 これは Hodge-Tate 表現 $W$ に関して $\dim_K\underline{D}(W)\leq \dim_{\mathbb{C}_K}(W)$ であることを使えば示せます。
 上の命題において、逆に $W',W''$ がHodge-Tate であるとしても、$W$ が Hodge-Tate であるとは限りません。
 
また、$\underline{D}$ に関して次も成り立ちます。
定理
 $K'=K$ の有限次拡大または $K'=\widehat{K^{\rm un}}$ とする。$W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、${\rm Gr}_{K',f}$ の自然な射 $K'\otimes_K \underline{D}_K(W)\to \underline{D}_{K'}(W)$ は同型である。
 したがって、$W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ が Hodge-Tate であることと、それを ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_{K'})$ の対象だと思ったときに Hodge-Tate であることは同値である。
 
この定理は、有限次ガロア拡大 $F'/F$ と有限次元 $F'$ ベクトル空間 $D'$ で${\rm Gal}(F'/F)$ の半線形作用が入っているものに対して
\[F'\otimes_F (D'^{{\rm Gal}(F'/F)})\to D'\]
が同型であるという事実*1に帰着して証明されます。
 
 
次回に続く
 

*1:Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, II, 5.8.1III

$p$ 進Hodge理論2.3

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2.3 Hodge-Tate分解

 以下に述べるSerreとTateの補題は、Tate-Senの定理とともに非常に重要なものです。

 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ と $q\in \mathbb{Z}$ に対し、$K$ ベクトル空間

\[W\{q\}:=W(q)^{G_K}\cong \{w\in W\mid g(w)=\chi(g)^{-q}w\quad (\forall g\in G_K)\}\]

を考えます*1。これは $q\ne 0$ のとき $\mathbb{C}_K$ ベクトル空間ではないことに注意します*2

 

 掛け算によって $G_K$ 同変な写像 $K$ 線形写像

\[K(-q)\otimes_K W\{q\}\hookrightarrow K(-q)\otimes_K W(q)\cong W\]

が得られます。さらに $\mathbb{C}_K$ をテンソルすることで

\[\mathbb{C}_K(-q)\otimes_K W\{q\}\to W\]

が得られます。

 

補題(Serre-Tate)
 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し、${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ の $\mathbb{C}_K$ 線形 $G_K$ 同変写像
\[\xi_W:\bigoplus_q(\mathbb{C}_K(-q)\otimes_K W\{q\})\to W\]
単射である。特に、有限個を除くすべての $q$ に対し $W\{q\}=0$ であり、 $\dim _KW\{q\}<\infty\quad (\forall q),\quad \sum_q\dim_KW\{q\}\leq \dim_{\mathbb{C}_K}W$ となる。等号が成立するのは $\xi_W$ が同型であることと同値である。
証明 
 $x=(x_q)\in\bigoplus_q(\mathbb{C}_K\otimes_K W\{q\})$ に対し、$x_q$ をelementary tensorの和 $\sum_{j=1}^{n_q}c_j\otimes w_j\quad (c_j\in\mathbb{C}_K,w_j\in W\{q\})$ で表したときの長さ $n_q$ のうち最小のものを $l(x_q)$ とし、$x$ の長さを $l(x)=\sum_ql(x_q)$ で定める。
 $0\ne v=(v_q)_q\in\ker \xi_W$ が存在すると仮定する。そのようなもののうち長さが最小な $v$ をとる。$v_{q_0}\ne0$ なる $q_0$ をとり、\[v_{q_0}=\sum_j c_j\otimes y_j\qquad (c_j\in \mathbb{C}_K^\times,y_j\in W\{q_0\},c_1=1)\]
とする*3。$\xi_W$ は $G_K$ 同変だから $g\in G_K$ に対して $g(v)\in \ker \xi_W$ であり、したがって $g(v)-\chi(g)^{-q_0}v\in\ker \xi_W$ となる。
 $\sum c_{j,q}\otimes y_{j,q}\quad (c_{j,q}\in \mathbb{C}_K(-q),y_{j,q}\in W\{q\})$ を $v_q$ の長さ最小の表し方とすると、$g(v)-\chi(g)^{-q_0}v$ の第 $q$ 成分は
\[g(v_q)-\chi(g)^{-q_0}v_q=\sum (\chi(g)^{-q}g(c_{j,q})-\chi(g)^{-q_0}c_{j,q})\otimes y_{j,q}\]
となる。これは $q=q_0,j=1$ の項が0になるため、$l(v)$ の最小性から $g(v)-\chi(g)^{-q_0}v=0$ でなくてはならない。
 すなわち、$\chi(g)^{q_0}g(v)=v\quad (\forall g\in G_K)$ であり、$v\in K(-q_0)\otimes_K W\{q_0\}$ となる。ここで $K\cong K(-q_0)$ だから $K(-q_0)\otimes_K W\{q_0\}$ の元はすべてelementary tensorである。よって $l(v)=1$。$v=c\otimes w$ とかくと $\xi_W(v)=cw\ne 0$ となり矛盾。
(証明終わり)
 
 
$W[q]$ を $W$ の $K$ 部分空間
\[\{w\in W\mid g(w)=\chi(g)^{-q}w\quad (\forall g\in G_K)\}(=W\{q\}\otimes_{\mathbb{Q}_p}\mathbb{Q}_p(-q))\]
とすると、この補題は $\bigoplus (\mathbb{C}_K\otimes_K W[q])\hookrightarrow W$ とも言い換えられます。
 
 
定義
 表現 $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ が Hodge-Tate であるとは、$\xi_W$ が同型であることを言う。$V\in {\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(G_K)$ が Hodge-Tate であるとは、$\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}V\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ が Hodge-Tate であることを言う。

 

 $W$ が Hodge-Tate のとき、$h_q=\dim_K W\{q\}$ とおくと $W$ はnon-canonical に$\bigoplus \mathbb{C}_K(-q)^{h_q}$ と同型になります。逆に、$W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ に対し分解 $W\cong \bigoplus \mathbb{C}_K(-q)^{h_q}$ があるとき($h_q\geq 0$ かつほとんどすべての $q$ は $0$)、Tate-Sen の定理から $\dim_K W\{q\}=h_q$ であって、$\sum_q\dim_K W\{q\}=\sum_qh_q=\dim_{\mathbb{C}_K}W$ となるため $W$ は Hodge-Tate です。つまり、Hodge-Tate という性質は $\mathbb{C}_K(r_i)$ の有限個の直和に同型という性質に言い換えることもできます。特に、$W$ がHodge-Tate なら $W^\vee$ も Hodge-Tate です。

 

 特にスムースで固有な $K$ 上のスキーム $X$ に対して $W=\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n(X_{\overline{K}},\mathbb{Q}_p)$ とおくと、Faltingsの定理より $W\{q\}$ は $H^{n-q}(X,\Omega^q_{X/K})$ とcanonicalに $K$ 同型になります。

 

 $W$ がHodge-Tateのとき、$h_q>0$ なる $h_q$ を $W$ のHodge-Tate weightと言います。$q\in\mathbb{Z}$ が $W$ のHodge-Tate wightであるのはちょうど単射 $\mathbb{C}_K(-q)\hookrightarrow W$ があるときになります。

 

 

次回に続く

*1:同型の左辺は $W(q)$ の部分空間、右辺は $W$ の部分空間であり、同型は $\mathbb{Z}_p(1)$ 基底の取り方によることに注意。したがって $W\{q\}$ はnon-canonicalに $W$ の $K$ 部分空間となる。

*2:$0\ne cx\in W\{q\}\quad (\forall c\in\mathbb{C}_K)$ とすると任意の $g\in G_K$ に対し $g(c)x=cx$ より $g(c)=c$ となり、$c\in \overline{K}^{G_K}=K$ となるが $K\subsetneq \mathbb{C}_K$ であるため矛盾。

*3:$\xi_W$ は $\mathbb{C}_K$ 線形であり、また $\mathbb{C}_K^\times$ 倍しても長さは変わらないので $c_1=1$ としてよい。

$p$進Hodge理論2.2

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2.2 Tate-SenとFaltingsの定理

 $X$ を $p$ 進体 $K$ 上のスムースで固有なスキームとします。$G_K$ の $p$ 進表現 $H^n_{{\rm et}}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)$ は調べるのが難しいですが、

\[V\leadsto \mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p} V\]

という操作をかませると簡単になることをTateは発見しました。

 

そこで次の定義をします。

定義
 有限次元$\mathbb{C}_K$ ベクトル空間 $W$ で連続半線形*1 $G_K$ 作用 $G_K\times W\to W$ が付随したものを $G_K$ の $\mathbb{C}_K$ 表現といい、それらのなす圏を ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ と書く(射は $\mathbb{C}_K$ 線形 $G_K$ 同変写像とする)。
 
 例えば、$V\in{\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(G_K)$ に対し、$W:=\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}V\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}$ となります。
 
 ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ はAbel圏で、テンソル積、直和、完全列が考えられます。また、双対についても $w\in W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K),\ l\in W^\vee$ に対して $(g.l)(w)=g(l(g^{-1}(w)))$ で $G_K$ の作用を定めることができ、$W^\vee\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ となります。さらに、同型 $W\cong W^{\vee\vee},\ W^\vee\otimes W'^\vee\cong (W\otimes W')^\vee$ や evaluation map $W\otimes W^\vee\to \mathbb{C}_K$ は ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ の射になります。
 
 Faltings は以下の重要な「比較同型」定理を示しました。
 
定理(Faltings)
 $K$ を $p$ 進体とする。スムースで固有なスキーム $X$に対し、${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ において以下の canonical な同型が存在する*2
\[\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n_{{\rm et}}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)\cong \bigoplus_q (\mathbb{C}_K(-q)\otimes_K H^{n-q}(X,\Omega_{X/K}^q)).\]
特に、$h^{p,q}=\dim_K H^p(X,\Omega_{X/K}^q)$ とおくと、non-canonical
\[\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n_{{\rm et}}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)\cong \bigoplus_q \mathbb{C}_K(-q)^{h^{n-q,q}}\]
が成り立つ。
 

 これによって、$\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n_{{\rm et}}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)$ は $\mathbb{C}_K(-q)$ という非常に簡単な $\mathbb{C}_K$ 表現の直和になっていることが分かります。また、後でみるように $K$ ベクトル空間 $H^{n-q}(X,\Omega_{X/K}^q)$ を $\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}H^n_{{\rm et}}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)$ から復元することもできます。ただし、$p$ 進表現 $H^n_{{\rm et}}(X_\overline{K},\mathbb{Q}_p)$ そのものを復元することはできないことに注意が必要です。一般に、$\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}V$ は $V$ の情報をかなり失います。例えば、split multiplicative reduction をもつ $K$ 上の楕円曲線 $E$ に対し、${\rm Rep}_{\overline{K}}(G_K)$ においてnon-split な完全列

\[0\to \overline{K}(1)\to\overline{K}\otimes_{\mathbb{Q}_p}V_p(E)\to\overline{K}\to 0\]

があります。これに $\mathbb{C}_K$ をテンソルすると ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ において(一意に)splitする完全列が得られます。これはTate-Senの定理の2つ目の部分ですが、まずその定理を述べるために次の定義をします。

 

定義
 $\Gamma$ を位相群とし、$M$ を位相的 $G$ 群とする。連続コホモロジー群 $H^1_{\rm cont}(G,M)$とは、連続な1-cochainを用いて定義された群コホモロジーのことである。

 

$ \eta :G_K\to \mathbb{Z}_p$ を連続指標とします。$H^1_{{\rm cont}}(G_K,\mathbb{C}_K(\eta))$ *3は ${\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ での拡大

\[0\to\mathbb{C}_K(\eta)\to W\to \mathbb{C}_K\to 0\quad (1)\]

の同型類と同一視されます:$\mathbb{C}_K(\eta),\mathbb{C}_K$ からきた $W$ の基底を一つ固定して$G_K$ 表現 $W$ を行列

\[\begin{pmatrix}\eta&*\\0&1\end{pmatrix}\]

で表すと、右上の成分が $G_K$ 上の $\mathbb{C}_K(\eta)$ 値連続1-cocycleになることが分かります。また、基底の取り方を変えると1-cocyleは1-coboundaryの分だけ変わります。逆に、1-cocyleからこのような拡大 $W$ を(同型を除いて)作ることもできます。

 

定理(Tate-Sen)
 $p$ 進体 $K$ に対し、
\begin{align}\mathbb{C}_K(r)^{G_K}=\begin{cases}  K\quad (r=0)\cr \ 0\quad (r\ne0)\end{cases}.\end{align}
また、$H^1_{\rm cont}(G_K,\mathbb{C}_K(r))$ は $r\ne0$ なら $0$ で、$r=0$ なら $K$ 上 $1$ 次元となる。
 より一般に、$\eta:G_K\to \mathscr{O}_K^\times$ を $\eta(G_K)$ が高々 $1$ 次元の可換 $p$ 進Lie群*4であるような連続指標としたとき、$\eta(I_K)$ が無限群のときは $H^i_{{\rm cont}}(G_K,\mathbb{C}_K(\eta))=0\quad (i=0,1)$ で、有限群のときこれらのコホモロジー群は $K$ 上 $1$ 次元となる。

 

これによって、完全列 $(1)$ は(一意的に)splitすることが分かります。

 
 この定理の真価は、Faltingsの定理におけるような分解
\[W\cong \bigoplus_q\mathbb{C}_K(-q)^{h_q}\]
をもつ $W\in {\rm Rep}_{\mathbb{C}_K}(G_K)$ を考えるときに発揮されることになります。
 
 
 
次回に続く

*1:$g(cw)=g(c)g(w)\quad (c\in\mathbb{C}_K,w\in W)$

*2:右辺には  $\mathbb{C}_K(-q)$ を通して $G_K$ 作用を入れる。

*3:$\mathbb{C}_K(\eta)$ は $\mathbb{C}_K$ に $g.c=\eta(g)g(c)$ で $G_K$ 作用を入れたもの。

*4:つまり $\eta(G_K)$ は有限、または $\mathbb{Z}_p$ を開部分群として含む。

$p$ 進Hodge理論2.1

https://math.stanford.edu/~conrad/papers/notes.pdf

2.1 $\mathbb{C}_K$ の基本性質

 以降、$K$ は $p$ 進体とし、その代数閉包を一つ固定して$\overline{K}$ と書きます。また、${\rm Gal}(\overline{K}/K)$ を $G_K$ と書き、$K$ 上の絶対値 $|\,\cdot\,|$ を $\overline{K}$ に延長したもの*1による完備化 $\widehat{\overline{K}}$ を $\mathbb{C}_K$ と書きます。${\rm ord}_K:=\log_p |\cdot|, {\rm ord}_K(0):=\infty$ とし、これと $|\,\cdot\,|$ を $\mathbb{C}_K$ に延長したものも $|\,\cdot\,|,{\rm ord}_K$ と書きます。${\rm ord}_K(p)=1$ となるように正規化することもよくあります。

 

 歴史的に一番はじめの「良い」クラスの $G_K$ の $p$ 進表現はHodge-Tate表現と呼ばれるもので、これからしばらくそれを見ていきたいと思います。

 

 まず一番基本的なものとして、1.1の $p$ 進円分指標があります。それについて少し説明します。${\rm GL}_1$ の $K$ 上の $p$ 進Tate加群は $\varprojlim \mu_{p^n}(\overline{K})$ で、階数$1$の自由 $\mathbb{Z}_p$ 加群です。これを $\mathbb{Z}_p(1)$ と書きます。これの基底を選ぶことは、原始 $p^n$ 乗根のcomaptible system $(\zeta_{p^n})_{n\geq 1}$ をとることに相当します(もちろんcanonicalな基底は存在しません)。$\mathbb{Z}_p(1)$ には円分指標 $\chi$ によって $G_K$ が作用します。そこで $\mathbb{Z}_p(1)$ の基底を一つ固定して、$\mathbb{Z}_p(1)$ を $\chi$ による $G_K$ 作用が入った $\mathbb{Z}_p$ とみなすことがよくあります。

 $r\in \mathbb{Z}_{\geq 0}$ に対して、$\mathbb{Z}_p(r)=\mathbb{Z}_p(1)^{\otimes r},\ \mathbb{Z}_p(-r)=\mathbb{Z}_p(r)^\vee$ と定め*2、また$\mathbb{Z}_p[G_K]$ 加群 $ M $ に対して $M(r):=M\otimes_{\mathbb{Z}_p}\mathbb{Z}_p(r)$ と定めます。$\mathbb{Z}_p(1)$ の基底を一つ固定すると、$M(r)$ は $ M $ に $G_K$ 作用

\[g.m=\chi(g)^rg(m)\quad (g\in G_K,m\in M)\]

が入ったものと同一視されます。 

 

Hodge-Tate表現の理論では、$G_K$ の $p$ 進表現 $V$ に対して$\mathbb{C}_K\otimes_{\mathbb{Q}_p}V$ への $G_K$ 作用*3を考えることがあります。そこで、まず$\mathbb{C}_K$ の基本的な性質を2つ見ていきます。

 

命題
$\mathbb{C}_K$ は代数閉体である。

証明 ($X$を適当に定数倍することで)

\[P=X^N+a_1X^{N-1}+\cdots+a_N\in \mathscr{O}_{\mathbb{C}_K}[X]\quad (N>0)\]

の根の存在を示せば良い。$\mathbb{C}_K=\widehat{\overline{K}}$ だから、$P$ に収束するモニック多項式 $P_n\in \mathscr{O}_{\overline{K}}[X]$ がとれる:$P-P_n\in p^{Nn}\mathscr{O}_{\mathbb{C}_K}[X]$。

$P_n$ の根 $\alpha_n$ は $\overline{K}$ の元だが、$P_n$ はモニックなので特に$ \alpha_n\in \mathscr{O}_{\overline{K}}$ である。

$P_{n+1}-P_n\in p^{Nn}\mathscr{O}_{\mathbb{C}_K}$ だから、$P_{n+1}(\alpha_n)\in p^{Nn}\mathscr{O}_{\mathbb{C}_K}$ となる。したがって$P_{n+1}$ の根を $\{\rho_i\}_{i=1}^N$ とおくと、

\[p^{Nn}\mid\prod_i(\alpha_n-\rho_i)\]

となり、ある $i$ について $p^n\mid \alpha_n-\rho_i$ となる。この $\rho_i$ を $\alpha_{n+1}$ とおく。これを繰り返すと $\mathscr{O}_\overline{K}$ のCauchy列 $\{\alpha_n\}$ で $\forall n,\ P_n(\alpha_n)=0$ を満たすものがとれる。$\alpha\in \mathscr{O}_{\mathbb{C}_K}$ をその極限とすると、$P_n(\alpha_n)\rightarrow P(\alpha)$ より $P(\alpha)=0$ となる。

(証明終わり)

 

$G_K={\rm Gal}(\overline{K}/K)$ の $\overline{K}$  への作用はisometry*4だから、$\mathbb{C}_K=\widehat{\overline{K}}$ への作用に一意に延長され、$G_K$ は $K$ 上の $\mathbb{C}_K$ のisometricな自己同型の群と同一視されます。

 

命題
$H$ を $G_K$ の閉部分群とすると、$\mathbb{C}_K^H$ は $L=\overline{K}^H$ の完備化 $\widehat{L}$ である。特に、$H$ が $G_K$ の開部分群なら $L$ は $K$ の有限次拡大で $\widehat{L}\cap \overline{K}=L$ となる。

証明 $x\in\mathbb{C}_K^H$ とする。$\overline{K}$ の点列$\{x_n\}$ で $v(x-x_n)\geq n$ なるものをとる。$g\in H$ に対し $g$ はisometryだから

\begin{align}v(g(x_n)-x_n)&=v(g(x_n-x)-(x_n-x))\cr&\geq \min \{v(g(x_n-x)),v(x_n-x)\}\cr&=v(x_n-x)\geq n\end{align}

となる。ここで、

\[v(x_n-y_n)\geq \min_{g\in H} \{v(g(x_n)-x_n)\}-\frac{p}{(p-1)^2}\geq n-\frac{p}{(p-1)^2}\]

なる $y_n\in \overline{K}^H$ が存在する*5。$x_n\rightarrow x$ だから $y_n\rightarrow x$ である。よって $x\in \widehat{\overline{K}^H}$である。(証明終わり)

 

 

次回に続く

*1:$K$ は完備だから延長は一意。

*2:有限自由 $\mathbb{Z}_p$ 加群 $ M $ に対し、$M^\vee:={\rm Hom}_{\mathbb{Z}_p}(M,\mathbb{Z}_p)$。

*3:$g(c\otimes v)=g(c)\otimes g(v)\quad (c\in \mathbb{C}_K,\ v\in V)$

*4:$\overline{K}$ への付値の延長の一意性より

*5:J. Ax, Zeros of Polynomials over Local Fields. Prop.1

$p$ 進Hodge理論1.3

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1.3 $p$ 進Hodge理論の目標
定義($p$進体)
$p$ 進体とは、標数0の完備離散付値体 $K$ で剰余体 $k$ が標数 $p>0$ の完全体であるもののことをいう。
 
 $p$ 進体 $K$ に対する $G_K$ の $p$ 進表現の多くの性質は惰性群 $I_K$ に現れます。そこで、$K$ を $\widehat{K^{\rm un}}$ で置き換えることで $G_K$ を $G_\widehat{K^{\rm un}}=G_{K^{\rm un}}=I_K$ に、$k$ を $\overline{k}$ に置き換えて考えることがよくあります。
 
 $p$ 進Hodge理論の目標は、$p$ 進体 $K$ に対する$G_K$ の「良い」クラスの  $p$ 進表現、特に代数幾何から現れるものを調べることです。
 
二つの例を見ていきます。
 
例1 スムースで固有な $\mathbb{C}$ 上のスキーム $Z$に対し、Hodge分解
\[\mathbb{C}\otimes_{\mathbb{Q}}H^n_{{\rm top}}(Z(\mathbb{C}),\mathbb{Q})\cong \bigoplus_{p+q=n}H^p(Z,\Omega^q_Z)\]
が存在することが知られています。これの $p$ 進類似として、スムースで固有な $K$ 上のスキーム $X$ に対し、$p$ 進表現 $H^n_{{\rm et}}(X_{\overline{K}},\mathbb{Z}_p)$ とHodgeコホモロジー $\oplus_{p+q=n}H^p(X,\Omega_{X/K}^q)$ の関係を知りたくなります。これはのちにHodge Tate表現の理論を使って調べられます。
 
例2 $p$ 進体 $K$ および無限分岐の代数拡大 $K_\infty/K$ で、Galois閉包 $K_\infty'/K$ のGalois群 ${\rm Gal}(K_\infty'/K)$ が $p$ 進Lie群であるようなものを考えます(たとえば $K_\infty=K_\infty'=K(\mu_{p^\infty})$)。FontaineとWintenbergerは、$K_\infty$ の分離代数拡大の圏と、$K_\infty/K$ に付随した標数 $p$ の"field of norms" $E$の分離代数拡大の圏が同値であることを示しました。さらに、$K_\infty$ の分離閉包を一つ固定すると、それに付随して $E$ の分離閉包および同型
\[G_{K_\infty}\cong G_E\]
が定まります。このように、無限分岐した標数 $0$ の体と、標数 $p$ のDVFのGalois群が自然に同型であるというのは非常に興味深い事実です。のちに $K_\infty=K(\mu_{p^\infty})$ の場合に限って詳しく見ていきます。
 
次回に続く

$p$進Hodge理論1.2

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1.2 Galois格子と変形理論

 前回は楕円曲線から誘導される $p$ 進表現を扱いましたが、もっと一般的な代数幾何的対象から誘導される $p$ 進表現を考えてみましょう。

 

 $X$ を体 $F$ 上の代数的スキームで、スムースかつ射影的であるとします。$p\ne {\rm char} F$ に対し、$G_F={\rm Gal}(F_s/F)$は$X_{F_s}=X\otimes_F F_s$ に作用し、したがってエタールコホモロジーの関手性より$H^i_{{\rm et}}(X_{F_s},\mathbb{Z}_p)$に作用します。$H^i_{{\rm et}}(X_{F_s},\mathbb{Z}_p)$ は有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群になりますが、捩れなしであるとは限りません。特に、$G_F$ の作用を行列表示することはできません。しかしこれらの表現は連続性を満たします:

 

定義(連続表現)
$\Gamma$ を副有限群とする。有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群 $\Lambda$ 上の $\Gamma$ の連続表現とは、$\Lambda$ 上の $\mathbb{Z}_p[\Gamma]$ 加群構造で、自然な写像 $\Gamma\times \Lambda\to \Lambda$ が連続となるようなもののことである。これらの表現がなす圏を ${\rm Rep}_{\mathbb{Z}_p}(\Gamma)$ と書く。${\rm Rep}_{\mathbb{F}_p}(\Gamma)$ も同様に定める。

 

代数体 $F$ および $F$ 上のスムース固有スキーム $X$ に対し、$G_F$ は $H^i_{{\rm et}}(X_{F_s},\mathbb{Z}_p)$ に作用します。これは有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群であって(自由 $\mathbb{Z}_p$ 加群とは限りません)、$G_F$ 作用は連続になります。この作用は「良い還元をもつ」素点 $\wp\not\mid p$ 上で不分岐(つまり惰性群上で自明)になることがエタールコホモロジーの底変換定理によって示されますが、$X$ が $\wp\mid p$ なる素点で「良い還元をもつ」ときは、$\wp$ でほとんどの場合不分岐になりません。そこで $p$ 進Hodge理論では、「良い還元をもつ」素点 $\wp\mid p$ における、不分岐性に代わる性質を見つけることになります。

 

  このように代数幾何から現れる表現には興味深いものがたくさんあって、例えばWilesは楕円曲線から誘導される連続表現$\rho:G_F\to {\rm GL}_n(\mathbb{Z}_p)$にモジュラー形式を対応させることでフェルマーの最終定理を証明しました。そのためにWilesが考えたのは $\rho$ の変形です。変形の例として、連続表現

\[\tilde{\rho}:G_F\to {\rm GL}_n(\mathbb{Z}_p[\![x]\!])\]

で $x=0$ で $\rho$ になっていて、ほとんどすべての $F$ の素点で不分岐であるようなものがあります。Wilesの証明の本質的な部分は、$\wp\mid p$ なる素点に対する $\rho\mid_{G_{F_\wp}}$ の変形を理解することです。

 

定義($p$ 進表現)
副有限群 $\Gamma$ の $p$ 進表現とは、有限次元 $\mathbb{Q}_p$ ベクトル空間 $V$ 上の $\Gamma$ の連続表現$\rho:\Gamma\to {\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(V)$ のことをいう($V$ の基底をとって ${\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(V)$ を  ${\rm GL}_n(\mathbb{Q}_p)$ とみなしたときの位相を考える。これは基底の取り方によらない)。このような表現のなす圏を ${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ と書く。

 

$p$ 進Hodge理論では主に $\mathbb{Q}_p$ 係数の表現を考えますが、上の例のように $\mathbb{Z}_p$ や $\mathbb{F}_p$ 係数を考えることも大事です。実際、${\rm Rep}_{\mathbb{Z}_p}(\Gamma)$ の対象に $\mathbb{Q}_p$ をテンソルすることで ${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ の元が得られ、しかも次が成り立ちます:

 

$V\in {\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ に対し、$\Gamma$ 安定な $\mathbb{Z}_p$ 格子 $\Lambda\subset V$ が存在する(つまり、$\Lambda$ は自由な $V$ の部分 $\mathbb{Z}_p$ 加群で $\mathbb{Q}_p\otimes_{\mathbb{Z}_p} \Lambda\cong V$)。

証明

 $\rho:\Gamma\to {\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ を $V$ の作用とする。$V$ の $\mathbb{Z}_p$ 格子 $\Lambda_0$ を一つ取る。$V=\mathbb{Q}_p\otimes \Lambda_0$ によって ${\rm Aut}_{\mathbb{Z}_p}(\Lambda_0)\subset {\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ とみなせる。$\mathbb{Z}_p$ は $\mathbb{Q}_p$ の開部分群だから ${\rm Aut}_{\mathbb{Z}_p}(\Lambda_0)$ は開部分群であり、したがって $\Gamma_0:=\rho^{-1}({\rm Aut}_{\mathbb{Z}_p}(\Lambda_0))$ も $\Gamma$ の開部分群になる。副有限群 $\Gamma$ はコンパクトだから $[\Gamma:\Gamma_0]=n<\infty$ である。$\Gamma/\Gamma_0$ の代表系 $\gamma_1,\cdots,\gamma_n$ をとると、$\Lambda:=\sum_{i=1}^n\rho(\gamma_i)\Lambda_0$ は$\Gamma$ 安定な $\mathbb{Z}_p$ 格子である。(証明終わり)

 

したがって本質的には、${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ の対象は ${\rm Rep}_{\mathbb{Z}_p}(\Gamma)$ の対象に $\mathbb{Q}_p$ をテンソルしたものであることが分かります。

 

次回に続く