$p$進Hodge理論1.2

https://math.stanford.edu/~conrad/papers/notes.pdf

1.2 Galois格子と変形理論

 前回は楕円曲線から誘導される $p$ 進表現を扱いましたが、もっと一般的な代数幾何的対象から誘導される $p$ 進表現を考えてみましょう。

 

 $X$ を体 $F$ 上の代数的スキームで、スムースかつ射影的であるとします。$p\ne {\rm char} F$ に対し、$G_F={\rm Gal}(F_s/F)$は$X_{F_s}=X\otimes_F F_s$ に作用し、したがってエタールコホモロジーの関手性より$H^i_{{\rm et}}(X_{F_s},\mathbb{Z}_p)$に作用します。$H^i_{{\rm et}}(X_{F_s},\mathbb{Z}_p)$ は有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群になりますが、捩れなしであるとは限りません。特に、$G_F$ の作用を行列表示することはできません。しかしこれらの表現は連続性を満たします:

 

定義(連続表現)
$\Gamma$ を副有限群とする。有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群 $\Lambda$ 上の $\Gamma$ の連続表現とは、$\Lambda$ 上の $\mathbb{Z}_p[\Gamma]$ 加群構造で、自然な写像 $\Gamma\times \Lambda\to \Lambda$ が連続となるようなもののことである。これらの表現がなす圏を ${\rm Rep}_{\mathbb{Z}_p}(\Gamma)$ と書く。${\rm Rep}_{\mathbb{F}_p}(\Gamma)$ も同様に定める。

 

代数体 $F$ および $F$ 上のスムース固有スキーム $X$ に対し、$G_F$ は $H^i_{{\rm et}}(X_{F_s},\mathbb{Z}_p)$ に作用します。これは有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群であって(自由 $\mathbb{Z}_p$ 加群とは限りません)、$G_F$ 作用は連続になります。この作用は「良い還元をもつ」素点 $\wp\not\mid p$ 上で不分岐(つまり惰性群上で自明)になることがエタールコホモロジーの底変換定理によって示されますが、$X$ が $\wp\mid p$ なる素点で「良い還元をもつ」ときは、$\wp$ でほとんどの場合不分岐になりません。そこで $p$ 進Hodge理論では、「良い還元をもつ」素点 $\wp\mid p$ における、不分岐性に代わる性質を見つけることになります。

 

  このように代数幾何から現れる表現には興味深いものがたくさんあって、例えばWilesは楕円曲線から誘導される連続表現$\rho:G_F\to {\rm GL}_n(\mathbb{Z}_p)$にモジュラー形式を対応させることでフェルマーの最終定理を証明しました。そのためにWilesが考えたのは $\rho$ の変形です。変形の例として、連続表現

\[\tilde{\rho}:G_F\to {\rm GL}_n(\mathbb{Z}_p[\![x]\!])\]

で $x=0$ で $\rho$ になっていて、ほとんどすべての $F$ の素点で不分岐であるようなものがあります。Wilesの証明の本質的な部分は、$\wp\mid p$ なる素点に対する $\rho\mid_{G_{F_\wp}}$ の変形を理解することです。

 

定義($p$ 進表現)
副有限群 $\Gamma$ の $p$ 進表現とは、有限次元 $\mathbb{Q}_p$ ベクトル空間 $V$ 上の $\Gamma$ の連続表現$\rho:\Gamma\to {\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(V)$ のことをいう($V$ の基底をとって ${\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(V)$ を  ${\rm GL}_n(\mathbb{Q}_p)$ とみなしたときの位相を考える。これは基底の取り方によらない)。このような表現のなす圏を ${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ と書く。

 

$p$ 進Hodge理論では主に $\mathbb{Q}_p$ 係数の表現を考えますが、上の例のように $\mathbb{Z}_p$ や $\mathbb{F}_p$ 係数を考えることも大事です。実際、${\rm Rep}_{\mathbb{Z}_p}(\Gamma)$ の対象に $\mathbb{Q}_p$ をテンソルすることで ${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ の元が得られ、しかも次が成り立ちます:

 

$V\in {\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ に対し、$\Gamma$ 安定な $\mathbb{Z}_p$ 格子 $\Lambda\subset V$ が存在する(つまり、$\Lambda$ は自由な $V$ の部分 $\mathbb{Z}_p$ 加群で $\mathbb{Q}_p\otimes_{\mathbb{Z}_p} \Lambda\cong V$)。

証明

 $\rho:\Gamma\to {\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ を $V$ の作用とする。$V$ の $\mathbb{Z}_p$ 格子 $\Lambda_0$ を一つ取る。$V=\mathbb{Q}_p\otimes \Lambda_0$ によって ${\rm Aut}_{\mathbb{Z}_p}(\Lambda_0)\subset {\rm Aut}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ とみなせる。$\mathbb{Z}_p$ は $\mathbb{Q}_p$ の開部分群だから ${\rm Aut}_{\mathbb{Z}_p}(\Lambda_0)$ は開部分群であり、したがって $\Gamma_0:=\rho^{-1}({\rm Aut}_{\mathbb{Z}_p}(\Lambda_0))$ も $\Gamma$ の開部分群になる。副有限群 $\Gamma$ はコンパクトだから $[\Gamma:\Gamma_0]=n<\infty$ である。$\Gamma/\Gamma_0$ の代表系 $\gamma_1,\cdots,\gamma_n$ をとると、$\Lambda:=\sum_{i=1}^n\rho(\gamma_i)\Lambda_0$ は$\Gamma$ 安定な $\mathbb{Z}_p$ 格子である。(証明終わり)

 

したがって本質的には、${\rm Rep}_{\mathbb{Q}_p}(\Gamma)$ の対象は ${\rm Rep}_{\mathbb{Z}_p}(\Gamma)$ の対象に $\mathbb{Q}_p$ をテンソルしたものであることが分かります。

 

次回に続く