$p$進Hodge理論 1.1

$p$進Hodge理論のpdf

https://math.stanford.edu/~conrad/papers/notes.pdf

で勉強した内容をまとめていこうと思います。

1.1 Tate加群

 $K$を$p$進体、つまり標数$0$の完備離散付値体で、剰余体$k$が標数$p$の完全体であるものとします。$p$進Hodge理論では、$K$の代数閉包$\overline{K}$に対して$G_K={\rm Gal}(\overline{K}/K)$の$p$進表現 $G_K\to {\rm GL}_n(\mathbb{Q}_p)$ を考ます。$K$上のスキーム$X$に対する$H^n_{{\rm et}}(X_{\overline{K}},\mathbb{Q}_p)$など、代数幾何的な対象が特に重要になります。

 

 まず、一番簡単な代数幾何的対象の例を見ましょう*1。$p$を任意の素数、$E$を代数体$F$上の楕円曲線とします。各$n\geq 1$に対して、$E(\overline{F})[p^n]$を$E(\overline{F})$の$p^n$捩れ点からなるアーベル群とすると、同型

\[\iota_{E,n}:E(\overline{F})[p^n]\cong (\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^2\]

があります。左辺には${\rm Gal}(F(E[p^n])/F)=G_F/{\rm Gal}(\overline{F}/F(E[p^n]))$が、したがって$G_F$が商写像を通して左から作用します。そこから$\iota_{E,n}$によって表現$G_F\to {\rm GL}_2(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})$が得られます。

$\iota_{E,n}$たちを$\mathbb{Z}/p^{n+1}\mathbb{Z}\to \mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$および$p$倍写像$E[p^{n+1}]\to E[p^n]$とcompatibleになるようにとると、Tate加群と呼ばれる$\mathbb{Z}_p$加群$T_p(E):=\varprojlim E(\overline{F})[p^n]$と$\mathbb{Z}_p^2$の同型

      \[T_p(E)\cong \mathbb{Z}_p^2\]

が得られます。これらには連続表現

   \[\rho:G_F\to \varprojlim  {\rm GL}_2(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})\cong  {\rm GL}_2(\mathbb{Z}_p)\]

を通して$G_F$が作用しています。このようにして楕円曲線$E$から$p$進表現$\rho$を構成することができました。$\rho$の性質について調べていきます。

$F$の任意の素点$\wp$をとり、埋め込み$\overline{F}\hookrightarrow \overline{F_\wp}$を一つ固定します(すなわち$\wp$の$\overline{F}$への延長を一つ固定します)。$G_{F_\wp}$は$G_F$の分解群になっていて*2、$\rho$をこの分解群に制限することで、$E$の$\wp$での情報をもった連続表現$\rho_\wp:G_{F_\wp}\to {\rm GL}_2(\mathbb{Z}_p)$が得られます。各素点$\wp$に対して$\rho_\wp$の性質を調べていきます。

$\rho_\wp$が惰性群$I_\wp\subset G_{F_\wp}$上自明であるとき、$\wp$で不分岐であるといいます。このとき、$\wp$での$F$の剰余体を$k(\wp)$と書くと、連続表現$G_{k(\wp)}\cong G_{F_\wp}/I_\wp\to  {\rm GL}_2(\mathbb{Z}_p)$が得られます。これに対し、当然$x\in\overline{k(\wp)}$を$x^{q_\wp}\ (q_\wp:=\#k(\wp))$にうつすフロベニウス写像$ {\rm Frob}\wp\in G_{k(\wp)}$の行先を調べたくなります。ここで次の定理が成り立ちます。

 

定理
 $\wp\not\mid p$とする。$E$が$\wp$で良還元$\overline{E}$をもつことと、$\rho_\wp:G_{F_\wp}\to {\rm GL}_2(\mathbb{Z}_p)$が$\wp$で不分岐であることは同値である。このとき、$\rho_\wp({\rm Frob}_\wp)$の$T_p(E)$への作用に関する特性多項式

\[X^2-a_{E,\wp}X+q_\wp  \qquad   (a_{E,\wp}:=q_\wp+1-\#\overline{E}(k(\wp)))\]

とかける。

 

$L$関数のEuler積

\[L_{{\rm good}}(s,E/F)=\prod_{{\rm good\ }\wp}(1-a_{E,\wp}q_\wp^{-s}+q_\wp^{1-2s})\quad \left({\rm Re}(s)>\frac{3}{2}\right)\]

(多くの例において、全平面に解析接続される)はBirchと Swinnerton-Dyerによって${\rm rank}_\mathbb{Z}(E(F))$と$s=1$の近傍での振る舞いの間に関係があることが予想されています*3。上の定理によって、$\rho$は$\wp\not\mid p$かつ良還元をもつ$\wp$に対してのEuler factorの情報をもっています。したがってこの$L$関数を調べるにあたって$\rho$は非常に重要であることになります。

 ここで$\wp\mid p$であるときにも、上の定理のように$\wp$で$E$が良還元をもつことを$\rho_\wp$の性質に言い換えられないか、と考えるのは自然でしょう。しかし、定理のように不分岐性を用いることはできません。というのも、$\rho_\wp$から$\det \rho_\wp$が得られますが、これは$\wp\mid p$のとき無限に分岐してしまうのです*4。そこで、Grothendieckは$\rho$がcrystallineであるという条件が、$\wp\mid p$の場合の不分岐性に代わるものだということを見出しました*5

 

次回に続く

 

*1:Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, ${\rm III}.7$等参照

*2:ノイキルヒ『代数的整数論』${\rm II},(9.6)$

*3:Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, ${\rm C.16}$等参照

*4:これは$F$の$p$進円分指標$\chi:G_F\to \mathbb{Z}_p^\times$に一致します。$\chi$は$g\in G_F$に対して、

$\zeta\in \mu_{p^\infty}=\bigcup \mu_{p^n}(F_s),\qquad g(\zeta)=\zeta^{\chi(g)}$

となる$\chi(g)\in \mathbb{Z}_p$をあてる指標です。

*5:crystalline表現を定義するのはかなり後になります。